観光地で女性との出会い

「あれ?さっきあじさい寺で…」

翌週の日曜日、再び鎌倉の地に降り立った。向かうは、北鎌倉の「明月院」。

この季節はあじさいが咲き乱れ、女性の人気も高いらしい。人仏なんかよりぜんぜんチャンスがありそうだ。境内は人勢の観光客でごった返していた。予想通り女性客の数も多い。しばらく入り口付近で張っていると、いた! 背の高い女が1人で歩いてる。黒ニットに赤いスカーフ。表情は仕事に疲れたOLといったところか。

「あの、すみません。あじさいをバックに写真を撮ってもらえないでしょうか?」デジカメを手にお願いすると、「あ、はい」と笑顔で応じてくれた。

「ありがとうございます。あじさい綺麗ですね」

「すごいですよね―」

「ここは初めてですか?」

「はい。こんなにたくさん咲いてるって思ってなかったから」

「僕も感動しましたよ。それじゃどうも」

「はい」

これだけ話せば印象に残ったはず。いざ尾行開始だ。彼女は北鎌倉駅から電車に乗った。まだ午後1時。電車の方向からして江ノ島や逗子あたりに向かうものと思われる。もちろん帰宅されたら一巻の終わりだが。

降りたのはお隣の鎌倉駅だった。江ノ電には乗り換えず、八幡宮方面へ歩いていく。あじさい寺からならわざわざ電車に乗らなくてもよかったのに。不慣れなんだな。神社へと伸びる長い階段を登った彼女は、お賽銭をして手を合わせると、おみくじ売り場でなにやら物色しはじめた。そっとそばに近づく。

「あれ?さっきあじさい寺で…」

「あっ、どうも」

「おみくじ買ったんですか?」

「お守りですね」

「あ、せっかくなんでまた写真撮ってもらっていいですか?」

「いいですよ」断られるはずはない。俺はまたカメラに笑顔を向けた。これにて仕込みは完了だ。次、3度目の観光スポツトでまた偶然に出会えば、もう他人ではない。

「ストレス解消?ですかね―。いろいろあって」
尾行を続ける。
彼女がバスに乗り込み向かったのは大仏だった。ベタなスポットがお好きなようだ。さりげなく接近し、とぼけた声を出してみる。
「あれ?」
「あ~!」
「なんか、同じコース周ってるみたいですね」
「ホントですね」
「じゃ、せっかくなんで、また写真撮ってもらっていいですか?」
「はい」
下手すりやストーカー扱いされるかと危惧していたが、彼女の様子に屈託はない。とそこに、俺たちのことをカップルだと勘違いした観光客が写真撮影を頼んできた。
「すいません、写真撮ってもらっていいですか?」
このチャンス、生かさぬ手はない。すかさず俺たちのツーショツト撮影もお願いした。
「せっかくだからね」
「アハハ、そうですね」
ウケまくってる。いいハプニングになった。ほんとのカップルのような雰囲気だ。
「鎌倉にはよく来るんですか?」
「昔、学生時代に1回来ただけです」
「今日はどうして1人で?」
「ストレス解消? ですかね―。いろいろあって。あじさいも見たかったし」
毎日、同じ繰り返しで刺激がないな~と流れ上、2人して大仏を見て回ることになった。彼女の名前はエリ。都内のエステで働いているそうだ。
「この後どこ行きます?江ノ電でも乗りましょうか」
俺の提案に、彼女は首を振った。
「あ、もう帰ろうかと思います」
「どちらから来たんですか?」
「埼玉です」
埼玉なら東京経由だ。ならばあきらめるにはまだ早い。
「オレ都内なんだけど、よかったらどっかでご飯でも食べませんか?」
「ああ、そうですね」
メアド交換なんて悠長なことはやってられん。押せるとこまで押そう。

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